2011年3・11 クチュールの来日展

3・11震災直後のダニエル・クチュールの来日

 

2011年5月にダニエル・クチュールが来日した。

3月11日の震災後、フランス政府は在日フランス人に帰国を勧告した、放射能被害を避ける為だ。私はヴォランティアで、2010年8月~2011年8月まで1年間日本の高校に通フランス人女子高校生のカウンセラーになって、彼女のお世話をした。入学の打ち合わせに高校にいったり、始業式に付き添ったり、ホストファミリーが変わる度に引っ越しを手伝ったりしていた。彼女は2010年の9月ぐらいには、学校での生活が合わなくて、途中でフランスに帰りたいと言っていたが、年を越す頃には、学校にも馴染み、すっかり日本が気に入っていて、ヴィザが切れる8月ぎりぎりまで日本にいるつもりにしていた。3月13日に彼女から私の所に電話が掛かってきて、フランスサイドから帰国するように言われていると伝えてきた。彼女は日本から出たくなくて帰国を渋った。結局彼女は、フランスサイドと交渉をし、再度日本に戻れるという条件で一時帰国した。3月15日、私は朝3時に起きて、彼女を朝5時にホストファミリー宅からピックアップして、成田で再入国の為の手続きをしてから昼頃の飛行機で送り出した。成田空国は出国する外国人でごった返していた。2ケ月程して、彼女は日本にもどり、1年間の学生生活を終え8月3日に帰国した。彼女と同じように、交換

 

留学で日本に来ていた仲間の高校生(フランスに限らない。世界中から来ていた)15人の内、一時帰国した後、日本に戻ったのは彼女を入れて2人だけだった。私は、自分がカウンセラーして、仲良くした、フランス人高校生が日本ファンになってくれて嬉しかった。私の大のフランス好きなので、なおさら嬉しかった。

 

ダニエル・クチュールはその様な騒然とした状況で来日してくれた。クチュールは本当に日本が大好きだ。日本語のレッスンを一人でしているので、日本語の単語を連発する。企画は前年から進めていたが、私も三越や大丸の担当者も、キャンセルされても仕方がないと考えていた。DM等の最終校正の段階で4月の初旬にクチュールと話した。クチュールの返事は<皆さん困っているのだから、私は予定どうり行きます>だった。神戸大丸と日本橋三越と軽井沢でダニエル・クチュール来日展を開催した。外国人がこぞって原子力災害の日本から逃げ出す中、クチュールは飄々として、成田に着いた。私はクチュールの顔を見るなり、不覚にも涙が流れた。震災の影響で売上は振るわなかったが、クチュールは淡々としてお客様に対応してくれた。神戸大丸では、長年クチュール展を開催しているので、ファンが多い。大きいサイズの油彩画売れた。この年のゴールデンウイークは軽井沢は賑わった。震災のトラウマで、休みに海に行く人が激減した、また、東北の観光地も全滅したが、放射能とも津波とも無縁な軽井沢が賑わった。そのお蔭で、ゴールデンウイークに掛かったクチュール展の売り上げは、上々だった。

 

クチュールの奥さんはもう6年も病気で苦しんでいる。今回は、その奥さんを隣人に託してきてくれたので、いつも奥さんの心配をして、毎夜フランスに電話を掛けていた。

 

その秋、私は、南フランスのボルドー近郊アングレムのクチュールの自宅を訪ねた。来日してお礼を言うためだ、また、特に奥さんにお礼を言いたかった。病床で心細い思いをしながら、放射能災害の日本に最愛のクチュールを送り出してくれたので、なんとお礼を言ったらいいかわからない。私は奥さんの手をとって何度も何度も有難うご繰り返した。奥さんは元気な振りをして、私達と昼食をしてくれた。アングレムの駅に戻るクチュールの車の中で<奥さん、結構元気そうですね>とクチュールに尋ねるとクチュールは<武田さんが来たから、随分無理をして一緒に昼食をしたんですよ>と寂しそうに言った。

 

私はクチュールの絵画が大好きだ。明るくて、無邪気で、太陽が輝いている。クチュールに、「貴方の絵画を見ていると何の苦労も無い人の様ですね」と言うとクチュールは「人生は苦しい事が沢山ある、私も同じです。だからこそ、私は明るい絵画を描き、見る人が少しの間でも、苦しい事、悲しい事から癒されて欲しいと思って描いています。私が、自分の苦しさを乗り越える事が出来るから、皆さんに歓びを与える絵画を描く事が出来る。その苦しい事を乗り越える事が出来るというメッセージも私の絵画から伝えたいのです。」と言った。いつも飄々としているクチュールが、どれだけの事を乗り越えて、画家であり続けたのかを、また、画家という職業が、それなりに大変な職業であることも、改めて感じた。

 

アングレムの駅で別れ際に、クチュールは日本語で<有難う。またね>と言った。

 

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